動物本能という点でペニーにギワクの視線を注いだことがある。
たいていのイヌはグレーチングという道路の蓋みたいなやつを嫌い、避けて通るもので、ペニーも以前はそうだった。
ところがブリュッセルへ来て、近所の公園で散歩するようになってからは、かなり大きなグレーチングの上を平気で歩くようになった。
それはおそらく地下鉄トンネルの換気孔で、見たところたいへん深く、ときどき地下鉄のくぐもった轟音が立ちのぼってきて、人間でも避けて通ることが少なくないというのに、ペニーったらまったく平気な様子でトコトコ歩いていく。
おまえ、生存本能消滅したんか?
そう思っていた8月のある日、いつものようにトコトコ横断していたグレーチングの上からペニーが不意に飛び退き、恐る恐る首を伸ばして地下をのぞきこんだ。
そのときは陽射しの角度のせいでグレーチングの下を見通すことができ、数メートル下に薄暗いコンクリートの床が見えた。
わたし自身「こうなっていたのか・・・」と初めて見る景色だったが、ペニーにとってはショッキングな発見だったらしい。
「グ、グレーチングやったんか・・・」
そのとき以来ペニーはすべてのグレーチングを避け、ほんの小さなやつでもきっちり迂回していくようになった。
このグレーチング事件では動物本能の具合を心配されたペニーだったが、ドイツでは鋭いところを見せた。
それはローテンブルクでのこと。
泊まったホテルは周囲が緑地だらけで、わんこ連れにはとても有難い。
それは夜の散歩中に起きた。
暗闇のなかを進むペニーが急に半立ちになり、激しく吠える。
驚いて懐中電灯を向けた先には・・・
灰色のものがうずくまっている。
ネズミ?
少し近寄ってみてわかった。
ハリネズミに違いない。
予期せぬイヌとの遭遇をなんとか切り抜けようと完全に死んだふり。
あとで聞いたらオランダからドイツにかけては野生のハリネズミがとても多く、庭にハリネズミ用のエサ台を置いている家も少なくないとか。
気の毒だからすぐにペニーを引き離し、お休みを言って別れてきたのだが、そのときのペニーの興奮ぶりは初めて見る激しさだった。
小動物を狩るために開発されたミニチュアピンシャーの本能ですね。
狩猟本能のすごさを日常的に感じるのは、ペニーが鳩を追いかけるとき。
もう鳩には十分慣れおり、ふだんそれほど追うことはないが、脚や羽根の故障や病気により動作に少しでも異常があるとき、ペニーは猛然とダッシュをかける。
狩猟本能なんやろな。
速く遠くへ走る、投げた武器を的確に命中させる、獲物を組み伏せる。
人間の狩猟が娯楽としてのスポーツを生み、オリンピックにまで発展してきたんやろなあと、ペニーの気配に驚いて飛び立つ鳩を見ながら思ったのである。
ちなみに拙者ふだんはペニーを鳥たちに近づけないようにしています。鳥さんが可哀想なだけでなく、ペニーには散歩中に興奮しない習慣をつけてほしいから。
乱暴なところのあるペニーさんだが、近ごろではなかなかいい子して歩いてまっせ。
そういえば今朝とても可愛らしい動画が撮れたので、近日公開。
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