これからはAIだぁ!
という時代の奔流が加速するなか、ちょっと待ったぁと声をあげた会社がある。あのニューヨークタイムズ紙(NTY)だ。
NYT は、人口知能 ChatGPT を運営する企業(オープンAI)が、ChatGPT の学習過程で NYT の記事や写真を無断使用したことにより著作権が侵害され、数千億円の損害が出たとして同社を提訴した。
NYT が何をどう報じているのかを知りたければ、NYT を購読しなくても ChatGPT に尋ねれば事足りるという状態が作りだされてしまうと、NYT は商売にならないというわけだ。
ネットの時代に何いうとるんや、記事はタダで読めるもんやでと Yahoo!ニュースなどの利用者はおっしゃるかもしれないが、あれはタダではありません。
Yahoo! などニュース配信社は、新聞テレビ通信社など報道各社から記事を購入している。その記事をわたしたちが「無料で」読めるのは、ニュース配信社が広告収入を得ているから。
今はニュースが「無料で」手に入る時代だし、マスコミ各社のなかには政治的なかたよりや情報の正確性の問題により国民から強い批判を浴びているところもある。NHKも左右両派から常につつきまわされ、こうした大手メディアのことをマスゴミと呼ぶひとも少なくない。
マスゴミを憎むひとたちは「真実はネットにしか書かれていない」とおっしゃることが多いけれど、はたしてそれでいいのだろうか。わたしたちの社会は報道機関を必要としていないのだろうか。
例えば今わたしがいる国には国営メディアしか存在せず、テレビも新聞も政府のおしごとぶりを紹介する広報機関にすぎず、政策批判なんて1行でも書かれることはない。この国で政府に異を唱えた者はある日突然に姿を消し、二度と戻ってこなかったりする(こういう表現はわたし自身にとってもリスキー)。
国民は大事なことは何も知らされずに暮らしている。ひとびとは隣国から漏れてくる電波でテレビの娯楽番組を観ることはできても、自国で起きていることについては無知。知る権利やら表現の自由やらとは無縁の人生を送っている。
日本がそうなってもかまわないのであれば、マスゴミなんて全部潰してしまい、「真実」が書かれているというネットの情報だけで暮らしていけばいい。ネット上には解説者・評論家としての素性が怪しい人士がうようよして、左から右まで様々な言説を用意しているから、「これは正しい」と思える主張にだけ耳を傾けていれば、気持ちが落ち着くかもしれない。
一方で、欠点がいくつかあるにせよ、ニュースのプロが発する情報に一定の価値があると考えるひとは、「このマスゴミが!」という言葉を激励の意味で発することはあっても、メディアの存在価値を認めてやってほしい。
NYT は、記者が足でかせいで書いた記事をIT企業によって空気か水のように使われてしまっては経営が成り立たない。時代の流れに NYT がなんとかしてついていく必要はあると思う。だがメディアが弱体化したとき、その社会の行く先がどんなものになるのか、わたしたちは少し考えたほうがいいと思うのだ。
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