わたしたちの散歩コースのひとつは線路沿いにある。長距離列車と貨物列車がひんぱんに往来するのだが、たまに警笛をけたたましく鳴らしながら通過することがある。それは「おい、気をつけろ」なんてものではなく「こらー今すぐどけー、どけどけどけー死にてえのかこらああああどけええええ」と聞こえる。いったい線路上で何が起きているのか、想像をたくましくしてしまう。
線路は長い長いフェンスによって道路と仕切られており、一般人は立ち入ることができない。ところが、わたしが歩きまわる界隈だけでも３ヶ所、フェンスが破られている。
誰かが意図的にこじ開けたものと見えるが、その目的は？
ヒントになるのは線路の周辺に散らばっているゴミか。食い物の容器や食べ残しのほか、酒の瓶や缶がよく転がっている。
こんなところへ入り込んで宴会をする人種もいないだろうが、フェンスの向こうに住んでいるのだったら話は別だ。ホームレスのひとたちが大勢いるという話を聞くし、実際わたしも汚れた服装の中年男性がフェンスの破れ穴から出てくるのを見たことがある。
闇夜、酔って線路上をふらつく人影。警笛けたたましく突っ込んでくる列車。この世の終末のような光景を思い浮かべてしまう。
わたしたちの暮らす明るい世界とべったり背中合わせになった闇の世界。日本ではほとんど感じることのない生活実感だ。
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