Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ ただいまラオス

プライバシーなんてとっくに諦めてます

日本は世界に7周半くらい遅れてセキュリティ・クリアランス制度をつくろうとしている。機密情報に触れる政府関係者のほか、民間人のうち国家安全保障にかかわる情報を扱う者を対象に、外国へ情報を渡してしまう心配がないかどうかをチェックする仕組み。

民間人なのにコッカアンゼンホショーとは物々しいが、ITでも工業製品でも薬品でも海外勢力が喉から手が出るほど欲しがる技術が日本には多く、盗まれれば軍事・経済両面で脅威になり得るからだ。

このことは日本だけではなく、アメリカをはじめとする同盟国にとっても大問題であり続けてきたわけだが、先進国のなかで日本は官民ともにセキュリティ意識が飛びぬけて低く、日本人に情報を渡すとすぐに洩れるから気をつけろというのが世界の合言葉になっている。官民による国際共同研究・開発の場においても、機密保持の観点から日本にお呼びがかからないことが珍しくないという。

それほどに情報センスの鈍い日本政府も、近年では中国によるスパイ行為の激化を見てようやくヤバイぞと思い始めたのか、くわえて水面下でアメリカに尻を蹴とばされたのか、セキュリティ・クリアランス(SC)制度の準備を始めた。

機密にたずさわるひとたちの何を調べるのか、この写真でだいたいわかると思うが、要するに身辺に外国勢力とつながるパイプがないか、ルールを守れる人物かどうかが問われることになる。不健康レベルの飲酒をするひと、大きな借金(ギャンブルや異性に注ぎ込んだ「人に言えない借金」)は、弱味につけこまれて秘密を売り渡すリスクがある。薬物乱用者もリスクのかたまり。敵国のエージェントは対象人物の裏側までしっかり調べ上げてから接近してくるからねえ。

このSC制度のことが取り沙汰されるようになると、さっそく「プライバシーがあ」という声が上がっている。個人的な見解を申し上げますとですね、プライバシーはどこまでも大事だが、公衆の利益のためプライバシーをさぐられ、つかまれることは仕方ないと思っている。

現にわたしは、妻が今の職につくにあたり、かなり詳しく調べられた。家族状況、学歴(大学の学歴証明書提出)、職歴、賞罰(犯罪の有無を記した警視庁の証明書を提出)、資産状況(すべての不動産・銀行預金額)などを提出。書類審査をパスすると、捜査官が自宅へ来て面談。交友歴や生活状況などにつきかなり突っ込んだ質問をされた。

なお、アメリカのSCは国防総省に設置された国防カウンターインテリジェンス・保全庁によって運営されており、そこで働く捜査官は元FBIとかそういうひとたち。全米で常時100万人ほどの調査が行われ、各地の捜査機関OBなどがフィールド調査を請け負っているらしい。

ちなみにうちへ来たおじさんは、アパートの玄関前にクルマをでんと停めたら管理人がやってきて「移動しておきますか?」と問われたんだが、「このクルマには触らないほうがいいと思います。トランクにショットガンが何丁か入っているので」と言って相手を黙らせたという。仕事で射撃トレーニングをしている方なのだそうで。

配偶者ですらこれなんだから、妻の調査はずっと厳しかった。下の「調査項目」を見ても、誕生地が日本、母親が日本人、夫が日本人である彼女は、けっこうなハンデを背負っていたんじゃないか。仮にわたしが米国籍をとっていれば少しは容易になったかもしれないが、日本特有の事情によりそこまでは踏み込めなかったという事情もある。

性的行動まで調査? と目を丸くされたかもしれない。だが性衝動ほど本人にとって制御し難いものはなく、いけないとわかっていても(あるいはわかっているからこそ)法律で禁じられた性行為にふけったり、ひとには言えない特殊な性癖に傾倒するひとはあなたの周囲にもけっこういるはず。こうした性的行動をネタとして握られ、脅迫され、機密情報を渡してしまう事案は、わたしたちが想像する何十倍もの頻度で発生しているらしい。

とくに男性の場合、ちょっと綺麗な姐さんに吸い寄せられ、デレついているうちに秘密を洩らしたり、不倫関係をばらすぞと脅されてまた秘密を吐いてしまうハニートラップの対象にもなりやすい。北京や上海に赴任してハニートラップのおさそいを受けなかった官民駐在員はゼロなんていう説もある。鈍感なせいで気づかなかったひとは別として。

こんな具合でわたしたちもコッテリ調べられたわけだがが、公益性の高い仕事に就くのなら当然のことと思ってきた。プライバシーは大切だが、官であろうが民であろうが、公の利益を守るためのガマンは受け入れるしかない。日本のSC制度がどんなふうになるのかわからないが、それが世界標準なんだからがんばろうねと申し上げておきたい。

ただし、SCで集めた膨大な個人情報がセキュリティ意識の低さゆえ外に漏れだすなんてことだけは避けていただきたい。

てかアメリカ国防省に外注したら?って冗談じょおおおおだん。

ブログのランキングというのがあって、これをポチしていただくとたいへん励みになります。

にほんブログ村 海外生活ブログへ

アジアランキング