黒ヤギさんは荷台の上で不安なのか、腰を落とし身を縮めている。
家畜と三輪貨物車。この素朴さが大半のラオス人の暮らしの風景だとすれば、ちょっとちがうひとたちもいる。
たとえば世界の四大会計事務所のひとつKPMGのラオス法人に勤務するハイパーエリートサラリーマン。ラオスの一般的な給料取りと比べれば数倍(もっと?)の所得があるだろう。
さらなる彼らの強みは給与を米ドルで受け取っていること。ラオスの通貨キープがとめどなく下落していくなか、KPMG社員の生活感覚としては昇給をはるかに上回るスピードで所得が増えているはずだ。
ところが最近、とんでもないことが起きた。給与のドル払いが突然終わり、キープ払いになったのだ。実質的な所得がガクンと減るだけでなく、月ごとに目減りしていくわけだから、ラオス人社員はパニックにおちいった。
なぜドル払いされなくなったのか。KPMGが給料をけちったわけではなく、どこかの政府が「ラオス人社員の給与はキープで支払え」とねじこんで来たからだ。これにより同社は、米ドルを政府系機関で両替したキープで払わざるをえなくなった。
政府系だからレートは悪く、そのぶん政府はずいぶんお安くドルを手に入れることができる。政府が喉から手が出るほどドルを欲しがる理由は以前に説明したとおり。通貨安と経済不振のダブルパンチを受けた政府は、どんな手を使ってでもドルを搔き集めようとしている。
給与のドル払いというおいしい条件を失ったハイパーエリートサラリーマンざま見ろという人がいるかもしれないが、ひとは誰しも収入に見合った暮らしーー住宅やクルマのローン・私立学校の学費などーーをしているもので、突然ハシゴを外されたら路頭に迷ってしまう。
現地の政府には逆らえないKPMGは社員を気の毒に思っているらしいが、できることは少ない(たとえばラオスだけ昇給させたら他国の支社とくらべて不公平になる)。ただ、ラオス支社の社員のうちトップクラスの人材については、近隣諸国の支社に移らせることによりドル払いを継続するという救済策が行なわれているらしい。とはいえこれまでに異動させれてもらえた社員は1名と聞いている。
ラオスにはヤギと三輪貨物車の庶民から世界の一流企業で働くハイパーサラリーマンまで様々な「階層」が存在するが、このご時世に誰が「勝ち組」といえるのか、予断を許さない状況が続いている。
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