Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ ただいまラオス

中山俊宏さんの逝去を悼む

深夜に訃報を目にして飛び起きた。

慶応義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏さんが亡くなった。

55歳の働き盛り、日々のワークアウトのたまものか、びしっと筋肉のついたお体がとても元気そうだったのに、くも膜下出血により急逝。

専門とするアメリカ政治・外交をベースに、ウクライナ侵攻いらいメディアでの発言、研究者によるオンラインシンポのまとめ役などでたいへん忙しい様子をお見受けしていたが、そのストレスも一因してのことだったろうか。日米の専門家から早すぎる死を惜しむ声があがっている。

個人的には仕事で接する機会が数度あり、その生真面目で誠実な対応にいつも助けられていた。

いわゆる帰国子女で英語が堪能、国際社会に向け日本の外交について堂々と説明できる貴重な人材。アメリカで開催したシンポジウムでは、錚々たるパネリストから意見を引き出しながらテーマに沿って進行する司会者として活躍していただいたこともある。

討論番組の収録後、政治学者の大御所ウォルター・ラッセル・ミード氏と(2016年3月 ニューヨーク)

中山さんは、折々の発言、発表した論文、雑談ネタなどからわたしが感じた範囲では、共和党シンパだった。

共和党が伝統的に行ってきた日本重視のアジア太平洋政策にこそ我が国の生きる道があるとの分析・問題意識が共和党支持のベースにあったと思う。

また、中山さんは青春時代を過ごしたアメリカで体感したであろう自主独立の開拓者精神を、より濃厚に受け継いでいるのが共和党ということもあるだろう。

ところが中山さん(と彼の考える日本)にとって「頼れる兄貴」だった共和党は、トランプの出現を機に単なるポピュリスト政党へと堕落し、そこに向けて中山さんは辛辣な批判を繰り返していた。

そうしたここ数年間の傾向を目にしてのことだろう、中山さん逝去を悼むネット上のコメントには、彼を民主党シンパと見る声が多かったがそれは違う。反トランプだからといって民主党シンパということにはならない。それと、たとえば「人権重視」系の発言を日本ですると左翼/リベラルと見られがちである一方、アメリカでは人権重視なんて党派とは無関係の一般的な価値観であり、そのあたりの地盤のズレみたいなものが中山さんの立場を誤解させていたのかもしれない。

90年代までの日本の政治学者は、米ソ冷戦時代のイデオロギー対決を背景に、ソ連/ロシアの研究者は根っこが左翼、アメリカの研究者は(略)という傾向が否めず、メディアがそれを意図的に利用することから、個人的にはいちいち割引きしながら聞く必要があった。

だが中山さんの世代にはそうしたカラーが希薄で、研究者らしい冷静な分析に安心して耳を傾けられるようになった。わけても日米関係という我が国にとっての最重要課題について考えるとき、中山さんの言葉はわたしにとって実に傾聴に値するものだった。

今後、中国の覇権主義とアメリカの対応が日本の死活問題として重みを増していくにちがいない。外交が不得手な民主党バイデン政権はどう出るのか。日本はどう備えればいいのか。中山さんに尋ねたいことが山ほどあった。

逝去を惜しみつつ合掌。

ワシントンDCで打ち合わせしたとき、ふとご子息の話題になり、少しはにかむように話しておられたことを思い出す。素敵な笑顔だった。

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