世界遺産アミアン大聖堂は、その足元に寄り添うようにして庶民が暮らしている。
街並みはけっこう可愛らしく、観光客に人気なんだが、家によっては素っ気なく小汚いままでいるところが散見され、たとえばドイツには古い民家をカラフルに塗装し過剰なまでに飾り立てたちょっとわざとらしい街並みが多いのと比べ、「俺んちは観光でメシ食ってるわけじゃねえ」から家には金かけないというフランス個人主義あるいはへそ曲がりのにおいがして面白い。
運河沿いを散策。小橋の上でお茶とかメシとか、潤いありげな暮らしが羨ましいね。
わたしが気に入ったのは、素朴な風合いの長屋。
別々の家でぇ!と叱られるかもしれないが、デザイン統一されたカタマリ感がいい。
タイトルの「理想の棲家」これだと思ったでしょ?
ちがうんだな。
ヒントはアミアンの街を貫いて流れるソンム川。ソンムとはケルト語で静けさを意味し、その名のとおり穏かに流れている。
この川沿いには、広さ300ヘクタール(野球場300個ぶん)という広大な湿地帯がある。
2000年前、この地へ来たローマ人が湿地帯の肥沃さに目をつけ、農地に転換するため網の目のような水路をつくった。水を集めて流すことで、乾燥した畑が得られた。
現在では専業農家は姿を消したが、住んでいるひとはいるという。
Hortillonnages(オルティヨナージュ)と呼ばれる湿地帯をめぐるボートに乗船。
ヒュイーンという小さな音とともに、ボートは水路に滑り出す。
船頭さんは饒舌にガイドしてくれるが、フランス語オンリー。英語やドイツ語が交互に流れる録音式だったら満点だが、とりあえず妻はフランス語がけっこう聞こえるようなので、それに頼る。
ところで、このときペニーがどうしていたのかというと・・・
じゃーん。
いい子してましたよ。
ただし、ボートを怖がらない水鳥が至近距離に来たときはジタバタしてた。
阿弥陀クジのように枝分かれする水路を進む。
5分ほど行ったところで、最初の建物が見えてきた。
作業小屋みたいな・・・?
と思ったら、けっこうなサイズの家。そして心地よさげな庭。
これだあ!
わたしたち夫婦の意見は完全に一致していた。これこそが理想の棲家。市塵をのがれ、水路に囲まれた静かな暮らしがここにある。
アメリカで家さがしをしたとき、首都近郊メリーランド州の森のなかに古い家が点在する住宅地と出会い、それが理想の棲家ナンバーワンになったのだが、今回はそれを超えた。
それは豊かな水のせい。とくに妻は水の流れが好き。
水質はかなりよく、水草が透けて見える。
湿地帯の住人は、定住者もいれば週末ハウスにしているひともいて、家庭菜園も盛ん。
電力や下水をどうしているのかわからないが、今はいろんな技術があることだし、こういうところに住むからこそ本格的にエコな生活に踏み切るという考え方もある。
たとえば日本で田舎暮らしすると地域共同体との付き合いが難しくて長続きしないなんて話をよく聞くが、フランス人はけっこう放っておいてくれそうだし、なにより物理的に孤立した居住区(島)という条件からして、俗な苦労はせずに済みそう。
冬の夜、薪ストーブにあたりながらすするワインなんて最高じゃね?
な妄想をたくましくするボートツアー、45分間の料金は大人7ユーロ(900円)。
世にも珍しい湿地帯をめぐり、理想の棲家の妄想まで楽しめたんだから、わが家史上コスパ最高のツアーだった。
あとはここオルティヨナージュで生計をたてる方法を考えるだけともいう。
どうしましょ。
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