いつもの散歩コースからそれて、知らない道に入ってみた。
ゆるかな坂をのぼっていくと、商店やレストランと住宅が混在する庶民の街になっていた。
あとで調べてみたら Rue Haute オート通りとなっており、仏語の haute は「高い」なので、丘の上の街みたいな意味かもしれない。
通りからは多くの路地が伸びていて、こういうせせこましいところで夜ワインでも傾けたら愉快だろうと、コロナ後の世界を夢想しながら歩く。
オート通りであれれ?と思ったのは、骨董品店が多いこと。
わたしが幼いころのスタイルの自転車が骨董品になっているのはちょっとアレだが、奥に見える hi-fi(Wi-Fiじゃないぞ)ステレオセットをふくめ、ほどよきレトロではある。
だがこういう飾りにしかならんものは典型的な無駄遣いやなとケチなことを考えていたら、ごく実用的なものも売られていた。
卓上ライトの塗料のハゲ具合がなかなかよろしい。
こういう店を3軒ほど見たところで、ようやく「ここ骨董通り?」と気づいた。
なかには建物ごと骨董品で、おそらく上階までぎっしりとショールームになっている店 も。
その名も「オートアンティーク」ってんだから、ここらのボスなのかもしれない。
当方はこの界隈をブリュッセル骨董通りと勝手に名付けて、時間のあるときにゆっくりまわる候補に入れた。
古いお屋敷の門や玄関を守っていた?飾りやら東洋のものやら、時間と空間の広がりを感じられるストリートだ。
ここでほんとに面白いと思ったのは骨董品ではなく、人間だった。
突然あたまの上から大音量のサッカー応援歌が落ちてきたので驚いて目をやると、ベルギー国旗が突き出ている窓あたりが震源地と思われた。
ただいま絶賛開催中のサッカー欧州選手権、しかもベルギーは好成績で予選リーグ突破という盛り上がりのなか、あたまのネジが飛んじゃったファンがラジカセを思い切り鳴らしているのだろう。
朝から酔っぱらっているのか常軌を逸した音量に辟易していたら、わたしとこころざしを同じゅうする方がおられたのか、斜め向かいの窓から「うっせえぞコラ!」とたぶんフランス語でそういう内容の怒声が飛んだ。
数秒後に応援歌の音量はすっと下がり、正義は勝ったと喜びかけたところでまたクソでかい音にもどってしまった。
サッカーファン殿にもプライドというものがあったのだろう。
面白くも馬鹿馬鹿しい人間風景だった。
それよりは何千倍、何万倍は馬鹿馬鹿しい人間風景もあった。
骨董通りから折れると、壮麗な建築物が横たわっていた。
約200メートルにわたる巨大な建物は、派手な窓飾り、張り巡らされた彫刻、やたらに数の多い列柱、アンコールワットかいってほどコテコテに積み上げた屋根から「近寄るな!オレは強いんだぞ」という声が聞こえてきそう。
おとぎの国の城かいと思ったら、ベルギーの最高裁判所なんだよねこれ。
わたしが見たのは横っちょからの姿で、正面へまわると金ぴかのカンムリをかぶったスゴイ姿を拝むことができる。
国家の最高機関だからエラそうに見せるのは当然としても、こんだけエバりくさってるのはちょっと滑稽かな。
王様は強いんだ!
国家の権威の前にひれ伏せ!
そう叫ぶための舞台装置を、植民地からさんざんにむしりとった富で作ったんだろうなーんて思っちゃったりするわけで。
人間はほんと馬鹿馬鹿しく荒々しい生きもんやね。
最高裁なんて極論すればしょぼい小屋ひとつでもいいんだよ。大事なのは建物じゃなく法律に従うことなんだから。
でも法の権威という目に見えないものには従いにくいのが人間の悲しさで、だからこういうこけ脅しが必要になってくる。
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