ある配達ドライバーの遺族のための募額金が100万ドルを超えた。
最初の目標金額は百万円単位だったのが、わずか1週間で1億円を突破したのは、ドライバーの死が大きく注目されたからだろう。
パキスタン系移民のカンディール・アンワルさんは、ウーバーイーツのドライバーとして一家を養っていたが、先月23日、二人組の少女(13歳と15歳)によって殺された。
アンワルさんはクルマを乗っ取ろうとしていたアフリカ系の少女たちを制止しようと運転席に半身を差し込んだ状態になったとき、少女が強引にクルマを発車、数十メートル先で横転した。
通行人が撮影した映像(視聴は要注意)には、アンワルさんの「これは私のクルマなんだ!」、通行人の「警察を呼べ!」といった声がおさめられており、続く事故現場では、車内から脱出する少女をその場に居合わせた州軍兵士が手助けする様子、事件の目撃者が「クルマの持ち主は彼なんだ!」と、近くに横たわるアンワルさんを指し示す声がおさめられている。
全米を驚かせたのは、少女による強奪事件のみならず、彼女らがテーザーガンを所持していたこと。自分で買ったのか、そういうものが家庭に置いてある環境で暮らしているのかわからないが、その暴力性には溜息が出る。
この事件はなぜ起きたのか。
ワシントンDCでのこうしたカージャックは、去年の1~3月には8件だったところ、今年は46件と急増している。
ひとつには、この地域の貧困層の若者たちのあいだで「クールな遊び」としてカージャックが流行っていることがあるらしい。
ワシントンDCエリアでいう貧困層とは、ほぼすなわちアフリカ系であり、かれらが多く住む地域と、それに隣接するメリーランド東部では、昼間にクルマであっても立ち入るなといわれる地区が多い。
今回の事件現場(数年前わたしたちがいたアパートの近所)は、新しいビルが建ち並ぶ再開発地域だが、以前はアフリカ系住民が中心の貧しい地域であり、かれらが再開発によって郊外へ押し出された後も、あちこちに「黒人居住区」はのこされており、それがためかどうかは不明だが、昼夜を問わずパトカーがサイレンを鳴らして駆け回ることが異様なほど多い。
カージャック多発のもうひとつの理由は、ドアをロックせずに配達に行くドライバーの多さかもしれない。
アンワルさんの事件後、わたしはバージニアのマンション街を散歩しながら頻繁に出入りする宅配車を見ていたが、ドアロックせずエンジンかけっぱなしのドライバーがほとんどだった。
その気になれば実に簡単に奪えるクルマがあれば、手を出してみたくなるのが「クール」にあこがれる若者ではないか。
わたしは宅配ドライバーではないが、クルマを運転する者として気をつけなければならないと思っている。
今回の事件、映像を見た方はおわかりだろうが、少女といっても体格は立派で、居合わせた兵士たちと変わらないところを見ても、決して甘く見てはいけない相手だということがわかる。
少女たちは「クールなカージャック」をする高揚感に加え、テーザーガンを持つことで万能感をいだいていたかもしれない。一方でアンワルさんは、顔に幼さの残る相手を見て、これなら奪い返せると思ったのかもしれないが、不幸にして目算は大きく外れてしまった。
誰かが金品やクルマを奪いにきたとき、一切抵抗するなというアドバイスをよく耳にする。相手がいかつい成人男性だったらあきらめるというのでは、とても命を守れないのが今のアメリカなのかもしれない。
てかアメリカなんだな。
あと6週間の滞在だけど、ほんと心していかねば。
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