Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ 現在転勤の谷間で米国滞在中

亡き兄の黙示録

名刺のデジタル化によりオリジナルを捨てたわけだが、ぽいっと投げ捨てられるほどドライな体質じゃなく、最後に未練がましく写真を撮った。

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兵隊として外を駆け回っているときは名刺がどんどん溜まったが、管理職になってからはぐっとペースが落ち、サラリーマンを四半世紀もやってこの程度だった。名刺という足あとだけを振り返れば、俺はいったい何をやっていたのかという気にもなる。

それでも生き延びてきたことは確かで、精神的・肉体的につらい時期はあったけれど、大クラッシュすることなく勤め続け、早期退職後もなんとか元気でやってきた。

これには果てしなく深い感謝をささげるべきだなあと思ったのにはワケがある。

 

今回、名刺のすべてを廃棄したわけではなく、友人や身内からもらったプライベートなやつは現物を保存した。

そういやこいつ周囲が思ってたよりずっと早く出世しやがって、いきなり課長の名刺なんか切って得意げだったなあ、あのあと部長役員と昇っていったのかなあ、ずいぶん連絡してないなあ・・・

などと追憶しながら名刺の束を繰っていたら、兄貴のが出てきた。

見た瞬間、どっと涙があふれた。

兄は今から20年ほど前、40代後半であっけなくこの世を去った。脳出血だった。

子煩悩な父として、さぞかし無念の最期だったことだろう。

 

わたしは兄が可哀そうでしかたなく、彼の運命をはかないものにした天を恨んだり神仏に悪態をついたりをくり返してきた。

だがこの日、兄の名刺を見た瞬間に流れ出した涙は、彼の死そのものではなく、死に至るまでのつらい人生のせいだった。

エリートサラリーマンとして高い業績を上げ、はた目には何不自由ない身の上と見られながらも、家庭においてはある事情により毎日毎日が苦難としかいいようのない暮らしだった。

ここのところを激しくすっ飛ばして書かざるをえないのだが、彼の家庭での不幸のそもそもの原因は、妻でもなく子らでもなく、親にあった。

ひとことでいえば兄は、田舎町のダンナ衆の流れというだけで無駄にプライドの高い家の長男として両親から多くのものを背負わされ、その重みに耐えながら、期待に応えようと常に努力した。

反抗というほどの反抗もせぬまま成人し、親が大乗り気でもってきた縁談を受け入れた結果、悲劇としかいいようのない結婚生活を送ることになった。

その毎日の辛さを、きょうだいであっても窺い知ることができなかったのは、兄が超人的な努力をはらうことで家庭が問題なくまわっているように見せていたからだと、後になって知った。

 

だが超人的な努力など長続きするものではない。

兄のいのちを奪った脳出血を医学的に説明すれば、脳の動脈にできた瘤(こぶ)が破裂したものであり、たまたまそこに弱点があったというだけのこと。

だがわたしには、毎日の凄まじいストレスが兄のからだを擂り潰していったのだと思えてならない。

だから早すぎた死は、神さまが「よくやったね、もう休んでいいよ」といって与えてくださったものなのかもしれない・・・

そう思うことで兄を失った悲しみが和らぐような気がする一方で、早く終わらせたほうがいいような人生を必死に生きた兄の姿が見えてきて、涙が止まらないのである。

 

以上のことは、過去に兄のことをおもうたび繰り返し考えてきたことだが、今回はまた特別のおもいがあった。

いまわたしたちは、生活条件の厳しい任地でコロナに右往左往させられながらも、仲良く力をあわせて笑顔で次のステージへ進もうとしている。

このことに深く感謝すればこそ、そういうふうな人生を送れなかった兄のことが憐れでならない。

 

という具体性をいちじるしく欠いたストーリーを前提に、ここで大声で訴えたい。

親の言うことなんか聞くもんじゃないよ。

親の立てた方針が自分にとって大歓迎であるなら、喜んで進めばいい。

だが、大なり小なり「ちがう」と思うのなら、耳を傾けるべきは自分の心の声だ。

親をがっかりさせることが親不孝だと思うな。

本当の親不孝は、本当の自分を大切しないことだ。

自分を大切にしないと、最悪のばあい「早く終わらせたほうがいいような人生」が待っている。

だから勇気をもって自分の心の声に耳をかたむけろ。

 

廃棄した名刺がたどった運命。

いくら日本語の名刺だとしても普通にゴミ箱に入れるのがはばかられるため(ダッカではあらゆるゴミが回収業者によって手作業でバラされることもありで)、妻の職場のシュレッダーにかけてもらうことにした。

出勤の最終日、妻自身の業務上の書類を大量にシュレッダーして、最後にわたしの名刺に取りかかろうとしたところで機械が壊れたものだから、廃棄を同僚に託してきたという。

シュレッダーの修理が終わるその日までは、世界を揺るがす可能性のあるわたしのヒミツがダッカに眠っていることになる。

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