「微笑みの国」と自称するタイ王国も、初めて訪れて出会ったのがあんなタイ人だったら、イメージは最悪だろう。
バンコクのスワンナプーム空港に着いた私たちは、都心部のホテルまでタクシーを利用することにした。運転手はとんだ雲助だった。
番号札の発券機から指定されたタクシー乗り場へ近づいていくと、ヤクザのように身を揺すりながら現れた中年男の運転手。ひとを睨み上げるような態度で行き先を聞き、Hotel Nikko と四度繰り返したらようやく理解できた様子だったが、英語はまるで通じない。
問題はスーツケースだった。トランクに積むとき「この大きさはなァ」みたいなジェスチャーを見せたので、ちょっとやばいヤツという感じはあったのだけれど、とにかく乗り込んだ。そしたらこの運転手、「スーツケース追加料金」という印刷物を取り出し、26インチを超えているから追加の100バーツを払えといってきた。
「No!わたしたちのは26インチです」と即座に切り返したのは妻だった。あとで聞いたら、近ごろは航空会社をはじめとしてサイズにうるさいところが増えてきたため、買うときにサイズをしっかり確認したのだという。
雲助とはしばらく押し問答になった。こっちの主張がまったく理解できないのか、あるいは言葉が通じないふりをしてしつこく主張すれば客が折れると踏んでのことか(←おそらくこっち)。
いうまでもないことだがわたしたちは100バーツ(2.7ドル)を惜しんで拒否したのではない。そんな料金を請求されなくても、目的地まで安全に気持ちよく届けてくれれば、気前よくチップは払っている。だが、この雲助のような腐った根性に対しては1バーツだって払うつもりはない。
そういうキビシイ態度を示し続けたところ、雲助はめんどうになったらしく、すでに100メートルほど走り出していた地点で停車し、バックギアを入れた。引き返すの?いいんだぜ俺たちは別のタクシーに乗せてもらうから。
だがタクシーの通路は一方通行で、引き返せば違反になる。その損得勘定がはたらいたのか、雲助はなにやらブツブツとつぶやいてから、街に向かって走り出した。
こいつ本気で根性クサってるなあと思ったのは、雲助がハイウエイで大型トラックのすぐ後ろにつけて追従し始めたときのこと。片側4~5車線ある深夜のハイウエイはクルマもまばらで、遅いトラックについていく必要はない。他のタクシーや乗用車が時速100~120キロでビュンビュン追い抜いていくなか、雲助はトラックの尻にくっついて80キロ走行。
一時はトラックとの車間を5メートルにまで詰め、追突リスク爆上がり。金が取れなかった腹いせにストレスを与えようとしていたのだろう。それ以外には説明のつかない異常な運転だった。
ホテルには無事に着いた。降り際にまたわけのわからん料金を請求されてゴタゴタするのが嫌で、ホテルのドアマンに仲裁に入ってもらう(以前にもそういうことがあった)ことを期待していたが、到着するなり妻が「逆転技」をかけた。メーター料金にたっぷり過ぎるほどのチップを乗せて支払ったのだ。
???!!
一瞬おどろいてから、あれは妻一流のイヤミだったのだろうと納得。お金というのはウソをついて取りに行かずとも、普通にしていれば余分に入ってくることもあるんだよという、まあ教訓のようなものでありますナ。
札の束を渡した瞬間、ひったくるようにして受け取り、指を舐めて一枚一枚数える雲助。この浅ましい男が思わぬチップから何を感得するのかは想像の外であるけれど。
みなさま、バンコクの雲助にわけのわからんことを言われても、簡単に引っ込んではいけませんぞ。大きなスーツケースに追加料金がかかるのは本当だけど。
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