Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ ただいまラオス

それはずるいよ

アメリカ人は仕事や収入が気に入らなければ勤めをプイと辞めて気楽に再就職というイメージがあるが、実態はとんでもなかったりする。「労働者を陥れる罠(わな)」と題するニューヨークタイムズの意見記事には驚かされた。

オハイオ州トレドに住む一児の母で美容師のシンディは、新しい勤め先で3ヶ月の試用期間を終え、正式採用になるかならないかの段階で、雇い主からこう言われた。

「君のノンコンピートについて話し合わなきゃならない」

ノンコンピートってなに?というシンディは、ここで驚くべき事実を聞かされる。アメリカには、雇用主と労働者が取り交わす契約条件のひとつとして「競業避止義務(俗称ノンコンピート)」が存在する。

これを受け入れて就職した従業員は、競合する別の雇用主の下で働いたり、競合する事業を自ら開始することが禁止されている。シンディは、以前の勤め先でノンコンピートが盛り込まれた雇用契約書にサインしており、そのせいで別の美容室への転職が妨げられることになった。

そんなバカな話とお感じのとおり、ノンコンピートはウォール街で億ドル単位の取引をする投資銀行のディーラーが、取引のノウハウや顧客情報などを他社に持ち込むことを防ぐために生まれたものであり、庶民の暮らしとは本来無関係。だがノンコンピートは中小企業の経営者たちにより長く悪用されてきた。これを使えば、薄給の従業員が他社へ転職するのを妨げ、人件費を抑えられるからだ。

再就職のみちを閉ざされた美容師のシンディは、隣州ミシガンまで月に2回通い、休業日の美容室店舗を借り古い顧客のヘアカットをして細々と食いつないでいる。居住地から一定以上離れた地域であれば、同業に就くことが許されているからだ。とはいえシンディは、往復220kmのドライブにハイウエイを使わず、一般道を走ることを余儀なくされている。高速料金を節約するためだ。

シンディと同様ノンコンピートに再就職を妨げられている労働者は5人にひとり(全米で3000万人)。かれらの転職がスムーズに実現すれば、年間3000億ドル(約41兆円)の賃金が増加すると連邦取引委員会は推定し、ノンコンピートを禁止する規則案を今年発表した。

だが今後の見通しは決して明るくない。財界からはノンコンピートの禁止は経営者への罰だと非難の声。アメリカ商工会議所は法廷闘争に持ち込んでもノンコンピートを守るとしている。

逆風も吹くなか、一般労働者の自由を奪うノンコンピートの禁止は実現するのか。その鍵をにぎる連邦取引委員会の意志決定者3名の顔をニューヨークタイムズは紹介し「あなたたち次第ですよ」と記事を締めくくった。

ジャニーズ問題で日本のメディアが右往左往するなか、先月公開されたこの記事のことを思い出し、報道の役割について感じるところがあったので紹介した。NYT紙がどっちを向いて仕事をしているのかを明白に感じることができるのではないか。

(ノンコンピート禁止案は、先月までにヒアリングが終了し、決定に向けての作業に入っているはず。今後も注目していきたい)

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