今回の旅は、ノルマンディー地方の中心都市ルーアンを起点に、西へ足を伸ばす予定でいた。西にはどうしても訪ねたい史跡があるからだ。
ノルマンディーの旅に欠かせないレンタカーを借りに行ったのはシクスト SIXT という会社。他社より安いことがメリットで、事故や不具合があったときの対応がひどいという評判がデメリット。行楽シーズンとあって各社軒並みクルマが出払っているなか、シクストに手ごろな小型車があったのでオンラインで予約を入れた。
それから店舗へ行って驚いた。クルマはないというのだ。
店の兄ちゃんはシステムではそうなっていても店舗の準備がついていかないことがあるとかなんとかゴニョゴニョ言ってたが、こちらはそういう内部事情をお伺いに来たわけじゃいない。
「でもさ、クルマがないのはこっちの責任じゃないよ。シクストが予約を受け付けて料金を引き落としたんだから、クルマを用意するのは君たちの責任だよ」
だが兄ちゃんは耳が聞こえないふりかリクツが通じないふりをすればこの場を逃れられると思っているようで、「システムではそうなっていてもゴニョゴニョ」「ないものはないのでゴニョゴニョ」を壊れたレコードのように繰り返す。客のなかにはここで退却するひともいるだろうが、わたしたちは1ミリも妥協するつもりがなかった。
「わたしたちが予約したプジョーがないことはよく理解できたよ。でもこっちはクルマがどうしても必要なんだ。ほかのクラスのクルマで代用することはできないかね?」
「ああそれだったら・・・」と兄ちゃんが少し考えてから提示してきたのはBMWだった。プジョーの3ランクぐらい上のクルマだから「料金は倍になります」と平気な顔でおっしゃるんだが、そんなの当然お断わり。プジョー以上の料金を払うつもりはまったくない。
ここで兄ちゃんが徹底抗戦を開始。
「レンタカーにはクラスってものがありまして、それによって料金が変わってきます。プジョーは〇クラスで、BMWは〇クラスなので・・・」という説明を5万回でも繰り返す勢いでまくしたてるんだが、あれはなんだったのだろう、料金クラスを理解していないアホな東洋人だと思ったのか、それとも話が通じないふりをすれば諦めてくれると思っていたのか。
「あのね、あのね、あなたの言ってることはよーっく理解してます。おっしゃるとおりクラスで料金は変わってきます。どの会社もそうだから、わたしたちよーっく理解してます。だけど問題はそこじゃなくて、上級クラスのクルマだろうがなんだろが、他に選択肢がなければそれをわたしたちに貸す義務がシクストにはあるということです。すでに契約ができているんですから」
ここまで詰められ、わたしたちに引き下がる意志のないことを知った兄ちゃんは、少し検討してみますみたいなことを言い始めた。他のお客さんの対応をしたり事務所に姿を消したりしていたが、しばらくして「あそこに置いてあるフォルクスワーゲンではどうでしょうか。料金はプジョーと同じでけっこうです」と言いだした。おそらくマネージャーに電話して指示を受けたのだろう。ところがそのクルマは8人乗りの巨大なワゴン車で、運転に支障はないが、ヨーロッパの狭い駐車場への出入りを考えると気が滅入る。
こういう展開が予想できてはいたので、こちらは他社の在庫をもう一度オンラインで調べ、エンタープライズという良心的な商売で知られる会社に小さなのが一台あることを突き止めた。ただしここはフランス。いくらエンタープライズとはいえ、店舗に行ってみるまでは確実なことはいえない。悪いことにこの日は3連休の初日の土曜で、今すぐエンタープライズに向かわないと閉店になるうえ、日曜・月曜は休みだから、そっちに乗り替えるプランは危険すぎた。腹を決めてシクストの兄ちゃんと向き合う。
「悪いけどあのワゴンはお断わりします。そのほかどんなクルマでもいいから代案を出してください」
それからしばしのいきさつがあったあと、兄ちゃんが言った。
「OK。そしたらBMWをプジョーの料金でお貸しします。クラスが違うので、今回は特例です」
恩着せがましい言い方にカチンときたが、これは受け入れることにした。もうめんどくさかったから。出てきたBMWは思いつくかぎり最悪の車種だった。
写真ではよくわからないと思うが、セダンのくせにゴキブリのように姿勢の低いスポーツタイプのモデル。まず、座席が低くて乗り降りに苦労する。車体の前後を丸く絞り込んでいるため四角い車と比べて車両感覚がつかみにく、障害物との距離感がわかりづらい。ルームミラーはほぼ何も見えない。そして、けっこうでかい。このボディを軽々と引っ張っていく強力なエンジンを搭載しており、スピードメーターは260km/h まで切ってあるが、高速道路でも最高130km/h だから、わたしたちにとっては何の役にも立たない。
運転のしにくさも問題だが、日本では600〜1100万円する値段の高さも問題。こんな高級車で事故でもおこした日にゃ、フルカバー保険をかけているとはいえ、悪評高いシクスト相手にどんな苦労をすることになるかわかったもんじゃ・・・
と、テンションだだ下がり状態でわたしたちは旅の後半戦を始めたのであーる。
ペニー最新情報。シッターさんがこの写真を撮ったとき、「いつ帰ってくるの?」という顔に見えたという。
うわーん、そんなん言われたらつらいがな~
それが理由というわけじゃないが、旅を少し早めに切り上げて帰国することになるかもしれない。こう見えてもいろいろありましてな・・・
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