Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ ただいまラオス

「隠すな、書かせろ」

ほんとにえらいひとってのは物事の道理がちゃんとわかっているのやな。第34代アメリカ大統領を務めたドワイト・D・アイゼンハワーが大戦中、連合国遠征軍最高司令官としてノルマンディ上陸作戦を指揮していたときのこと、数年をかけた入念な準備の最終段階、多くの米兵がイギリスに渡って上陸戦の訓練を受けていた。

若い兵隊のことだから、夜は楽しく過ごしたい。街へ繰り出して酒を飲むだけでなく、地元の女性たちとたいへん親密な時を過ごすことが毎夜くりひろげられていた。そうした米兵の中には黒人兵が含まれていたわけだが、白人兵のなかには「黒人どもが白人の女に手を出すなどけしからん」といって黒人兵に暴行を働く事件もまた頻繁に起きていた。

やがてこのことが新聞記者に嗅ぎつけられ、記事にされそうになったとき、連合国遠征軍最高司令部の将校がアイゼンハワー最高司令官のオフィスにあたふたと駆け込んできた。

「将軍、えらいことになりました。こんなことが明るみに出ればアメリカにとって大きな恥です。記事を差し止めるよう取り計らいますが、それでよろしいでしょうか」

そう尋ねられたアイゼンハワーは言下にこの案を却下し、こう言った。

「握り潰しはいかん。こういう問題というのは隠せば隠すほど大ごとになるものだ。記者が書くというのなら書かせておけ」

今から80年前、しかも戦争中とあって軍によるメディアの締め付けはかなり容易だったはずだが、アイゼンハワーはこのようにして物の道理をわきまえていたらしい。戦勝の立役者、稀代の英雄として国民的な人気が沸騰し大統領に選ばれたアイゼンハワーだが、勢いだけでトップに立ったわけではなさそうだ。

戦時中に話を戻すと、トルーマン大統領のもとで日本への原爆投下が検討されたときアイゼンハワー将軍は、「ほとんど負けている敵に対して、そうした壊滅的な兵器を使用することは避けるべき」と強く反対した。また、1953年に大統領に就任して以降も彼は核兵器所持の効果については一貫して懐疑的で、核兵器は平和の役に立たないばかりか人類にとって危険な存在であると考えていた。そうした考えは、職業軍人としての知識と冷静な判断によるものだったろう。ちなみに米ソが核ミサイルを向けあって緊張の極に達したキューバ危機(62年)は、アイゼンハワーが大統領を退任した翌年のことだった。

訪米中の岸信介首相とゴルフに興じるアイゼンハワー大統領(1957年)

「隠せば隠すほど大ごとになる」というアイゼンハワーの考えは、少しも輝きを失っていないどころか、ネット上に大量の情報が飛び交い、不祥事への対応を間違った瞬間はげしく炎上する現代にあって誰もが肝に銘ずべき金言だし、逆にいえば人間は少しも進歩していないのだなあとも思うのである。

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