Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ ただいまラオス

ゴルバチョフ氏のおもひで

ゴルバチョフという人物がこの世を去ったとき、わたしが思い出したのは、その穏やかな眼差しと声だった。

自分にとってマスコミで働いてきたことの最大の利点は、数多くの著名な人物に会えることだった。政治家、作家、経営者、芸術家、スポーツ選手、芸能人、宇宙飛行士。会ったことのないジャンルは著名な犯罪者ぐらいか。

こういったひとたちは常人にはないオーラを発していることが多く、刺激を受けることが多かった。その割にはちんけなサラリーマンに終始してしまったけど。

ミハイル・ゴルバチョフに会ったのは2005年、ある番組に彼のインタビューを入れることになり、モスクワへ行った。

旧ソ連の親玉ながら、世界秩序の安定のため大国のメンツを捨て去って西側に歩み寄ったゴルバチョフは、単純に言って偉大な人物だと思う。その彼に、21世紀の世界が向かうべき方向について尋ねようという企画だが、その中身はさておき、政界から引退して14年、74歳のゴルバチョフ氏の口調は穏やかで、分厚い人間味を感じさせ、ロシア語をひとことも解さないわたしがじっと聞きほれるほどだった。かつてソ連指導者としてふるったテンションの高い熱弁は「あくまでお仕事用だったのか」と思わされた。

68歳のときライサ夫人を白血病でなくし「彼女なしでは生きていけない」と嘆いたゴルバチョフ

で、恥ずかしくてここには書けないほどなんだけど、そのときのモスクワの思い出ナンバーワンはゴ氏へのインタビューではなく、モスクワの街の様子だった。

あれはたしか2月の終わりか3月のはじめだったと思うが、モスクワはめちゃ寒く、通訳さんが「今朝はマイナス5℃、ずいぶん温かくてよかったね」などとおっしゃる世界。日本最北端、稚内の緯度が45度、モスクワは55度ってんだからねえ。

それほど寒いからか知らないが、歩きながら酒を飲むひとをよく見かけた。ビールの中瓶ぐらいのやつをぐいっと飲み干すと、道端に積み上がった雪にぶすっと差し込んで行く。あっちでもぶすっ。またこっちでぶすっ。雪解けが来たら歩道じゅう空き瓶だらけになるんだろう。モスクワの「小汚い春」を想像して笑ってしまった。このことが著名人へのインタビューよりも、通訳さんに紹介してもらった美味いロシア飯屋よりもしっかりと心に刻まれてしまったのはどういうわけだろう。

ロシア国民は今度の冬をどのようにして迎えるのか。好きなだけ酒も飲めないような困窮ぶりだったら気の毒だが、それもこれもあんたたちが育てた独裁者のせいなんだから、誰かを恨むのはやめにしたほうがいい。

それにしてもプーチンというやつ、ゴルバチョフが旧ソ連国民に与えた自由がよほど気に食わなかったのだろう、ソビエト連邦の解体はロシア民族最大の屈辱だったと吐き捨て、専制主義の国家づくりに邁進している。

加えて力による現状変更をウクライナに仕掛け、今や中国・イラン・北朝鮮といったならずもの国家と組んで冷戦時代とは比べものにならない不安定で危機的な世界をつくりだしている(20世紀の冷戦は、今の状況と比べればよほど冷静に管理された安全な状況だったと思う)

2005年にわたしが訪ねたとき、国家としての「春」の到来に胸をふくらませていたロシアは、完全に冬に戻ってしまった。今後についての最も不幸な想像は、いまプーチンが倒れたとしても健全な政治家が出現するわけではなく、混乱が続き、ほどなく強権で国民を抑え込む政治が復活するだろうということ。その不安定さが震源となって世界を揺るがし続けるだろうということ。

21世紀は「いろいろ良くなるだろう」と予想していたわたしがどれほど甘かったのか、だんだん見えてきてコワイヨ・・・

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