その村の真ん中には寺があり、軒下に巨大なスズメバチの巣がかかっていた。スズメバチは怒らせると怖いので、村人は気を付けて暮らしていた。
「村の統領」を名乗る男がやってきて、いきなりスズメバチの巣に腕を突っ込み、爆竹を炸裂させた。
「こんなやつら、俺がぶっ殺してやる!」
爆竹は派手な音こそたてたものの、存外頑丈にできている巣を吹き飛ばすことはなかった。それどころか、怒り狂って巣から飛び出したスズメバチが村人を攻撃。怪我人が続出した。

「これでは田んぼへも出られねえ」
「統領のやつ、なしてあげな乱暴したか」
「いや待て、あいつ本当に統領なのか」
困惑する村人を尻目に「統領」は、最初の爆竹で女王蜂は殺したから楽勝だ、騒動は2、3日で終わらせると得意げだったが、4日たっても5日たってもスズメバチの反撃が止むことはなかった。村中に被害が広がっていた。
そのうち「統領」の言うことがあやふやになってきた。
「もしかしたら2、3週間かかるかもな」
「必要に応じてもう少し長く」
「いずれにせよ、わしが勝利宣言したときが戦いの終わり」
そう言われて安心した村人はひとりもいなかった。それどころか、近郷からの物売りも来なくなり、村の暮らしは急に細くなった。
「このままじゃ、冬を越せねえぞ」
「だれか談判しに行くべきじゃねえか」
「いや、あいつのメンツを潰したら何すっかわからねえ」
「下手すりゃ、ほかの巣まで掻き回すぞ」
「だばいっそのこと——」
「……いっそのこと?」
という民話の結末について、わたしはバッチャから聞いていない。
そういえば、バッチャはこんなことを言っていた。
「スズメバチは寺に巣をかけたべ。だから自分らは、絶対に負けねえと思ってる」
「死ぬのが怖くねえやつを相手にするには、よほど腹を据えてかからねばならんのだが、愚か者にはそれがわからんのだよ」
こんな感じだったと思うが、あのときはまだ絵空事としか思えなかった。
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