お世話になった店がなくなるのは寂しいものだ。アメリカで寝具・台所用品ほか家庭雑貨の豊富な品揃えで知られる大手チェーン「ベッド・バス・アンド・ビヨンド」が破産に追い込まれた。全米に360ほどの店舗があり、わたしたちはメリーランドやバージニアの引越し先でいつも利用していた。
ベッドバスは返品・返金の条件のゆるさにおいて特筆すべきものがあった。アメリカの小売店は基本的に返品・返金を受け付けてくれる(買ってみたけど違う感じがした、でもOK)んだけど、ものにはなんでも限度というのがあり、ずいぶん時間がたってから使用感ありありで返品なんてのはどうかみたいな線引きが、人それぞれとはいいながらあると思うんだけど、ベッドバスはわたしたちの想像の斜め上をいっていた。
あるときわたしたちがシーツ選びで悩んでいたところ、通りかかった中年の女性店員さんが「そんなに悩むんだったら、とりあえず買ってみればいいじゃない」と気軽に声をかけてきた。そうはいっても使用済みのシーツの返品なんて・・・とゴニョゴニョ言いかけた妻を制して店員さんはこう言った。
「あたしなんかこの店で買ったシーツ、半年たってどうしても納得できなかったから返品したわよ」
ベッドバスの正式な返品ポリシーをチェックしていないが、この店員さんのケースは身内だから返品できちゃったとかではなく、堂々と行われたものらしい。
「だってほら、会社としてはお客さんに本当に満足して使ってもらわなきゃ意味がないわけで」と笑顔でおっしゃる店員さん。わたしたちのなかでベッドバスはすげえ会社という見方が定着した。
だが時の流れに逆らって生き延びることは難しい。71年に創業したベッドバスも、メディアが伝えるところでは、同業他社やネット通販大手などとの競争激化による業績低迷から回復できなかったらしい。この時代、ネット通販にもしっかり力を入れないと生き残りにくいことは常識。ベッドバスの場合、コロナによる実店舗への客足停止が、他社よりも大きな打撃となったのかもしれない。
ベッドバスからメールが来た。
大切なお客様へ
本日、弊社は破産法の適用を申請いたしました。
これまでお客さまの大学進学から結婚、新しい家での暮らし、出産といった人生の重要な節目を通じて、弊社を信頼してくださったことに感謝しています。
という挨拶に続き、各店舗は当面通常の営業が続くこと、返品・交換も従来どおりに行われることなど、客を安心させる内容が記されていて、なんだかぐっと来てしまった。
ベッドバスの命運はすでに定まったわけではなく、今後店舗などの資産を買い取って事業を引き継ぐ会社が現れれば消滅を免れる可能性もあるらしい。今回の破産劇は、業績不振のみならず、最近話題になっているアメリカの中堅銀行の破綻により発生している金融不安(のせいでベッドバスの資金繰りが悪化)という側面もあるらしく、そうであればお金の算段さえつけばベッドバスにも復活の道が開けるのかもしれない。
アメリカらしい大らかな店、わたしたちの心を温めてくれた店がなくならないことを祈っている。
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