「江戸情緒」に憧れをいだき、一度は江戸町人の暮らしを体験してみたいと思う方もおられるようだが、もしもそうするんだったら2泊3日ぐらいにしておくのがよさそうだ。
広大な屋敷に住むお武家は別として、町人居住エリアの人口密度(1平方キロメートルあたりの人口)は6万7000人を超えていた。東京23区の人口密度は1万5000人。しかも江戸時代の住居は現代のように高層化しておらず、大半は平屋暮らしだったから、体感的な人口密度は30万人を超えていたかもしれない。
そんな人口密集地でひとたび火事が起きようものなら、たまったものではない。17世紀の明暦大火では死者10万人あまり。幕末の安政地震による大火では13万人あまりが命を落とした。
感染症もすごかった。黒船来航の5年後、安政5年のコレラ大流行では、わずか2ヶ月で死者26万人に達したともいわれる。この数字が正確であれば、江戸住民の4人にひとりが死んだことになる。
そのほかの感染症について「人口から読む日本の歴史」から引用。
インフルエンザ、赤痢、腸チフス様の疾病、痘瘡、麻疹の波が次々に襲ったし、なかば慢性化した梅毒や結核もまた都市に多い伝染病だった。伝染病ではないが、「江戸煩い」「大坂腫れ」と呼ばれた脚気、劣悪な住宅事情や生活環境からくる乳児死亡もまた、都市住民の死亡率を高めていた。
そんなわけで江戸庶民の暮らしというものは、おかみさんたちの賑やかな井戸端会議もあったろうし、細やかな人情もあったろうが、過密で不潔で死亡率の高いアリ地獄のような環境でもあったわけで、これが江戸に滞在するなら2泊3日をお勧めする理由。
病気や火事なんかコワクナイ、自分は大好きな江戸に移住するのだという方がおられたら、性別は慎重に選んだほうがいいかもしれない。江戸の都市機能は、諸国から大量に流入してきた労働力によって支えられており、すでにお分かりかと思うが、若い男が余りまくっていた。男性38万人、女性21万人の江戸。移住するなら女性としてどうぞ。
ちなみに日本の都市では、人口130万(諸説あり)の江戸の生活条件が抜きんでて劣悪だったのと比べ、第二の都市大阪(人口28万)などはずっとましだった。時代の空気を吸ってみたいだけなら大阪をお勧めしたい。わたしは大阪のマワシモノではない。
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