Pennyと地球あっちこっち

日米カップルの国際転勤生活 ~ ただいまラオス

パリ北駅、胸しめつけられた光景

うちの近所の駅から特急列車に乗ると、1時間40分ほどでパリに着く。

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この日(3月19日)、フランスのコロナ感染者数は9万8000人を数えていたが、パリ行きの車内はそこそこ混んでいた。陸路での入国制限はなく、誰でも旅することができる。

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ベルギーからフランスへと続く車窓風景は、見渡すかぎりの農地。

人間という動物はおとなしくそこらの草でも食っていればいいものを、手の込んだ料理を楽しむために多様な作物を育てるようになり、気の遠くなるほどの面積の農地を必要とするようになった。人類とは食料生産のバケモノである。

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農地は、他人が切り開いたものを力づくで奪い取れば、そのぶん豊かに安全な暮らしが手に入るわけで、人類はそんな争いを際限なく繰り返してきた。

いや繰り返している。

21世紀のヨーロッパでもそれが起きている。

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パリ北駅着。

そこにあったのは赤十字が設けたウクライナ難民の受付所だった。

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幼い子を連れた母親が数人。住み慣れた家を、家具や大切な品々を、思い出の写真を、年老いた親を、子供のおもちゃもすべて捨て、かばんひとつでやてきたのだろう。イヌを見捨てなくて済んだことは不幸中の幸いか。夫たちは銃をとって戦っているのだろう。互いの無事を知らせる連絡方法はあるのか。疲労とストレスのせいか表情も動きもにぶい母子の姿が胸をしめつけてくる。

ロシアによる侵略開始から1ヶ月がたった今日(3月24日)までに、国外へ脱出したウクライナ人は362万人。これだけのひとびとの人生がプーチンの狂気によってぶち壊された。今後の事態の悪化は確実。この落とし前は何があってもきっちりとつけなければならない。たとえばプーチンが殺されたからといって話をうやむやにすることは許されず、ロシア国家は代償を支払わなければならない。

もちろんロシア国民自身がプーチン政治の被害者という側面はある。

プーチンには、最高権力を20年あまりにわたって掌握しながら、ロシア人が食えるようになる産業を育てなかったという大罪がある。いまアメリカが生み出した様々なサービスや中国の工業製品がなかったら人類は生活が成り立たないといってもいいほどだが、なくなって困るロシア製のものってあるか?

プーチンは産業を育てる代わりに、天然ガスなど資源の切り売りしかしてこなかった。資源ビジネスは製造業のような広大な「すそ野」を必要とせず、ガス会社ひとつ興せば巨利を生みだすことができ、権力者はそこに手を突っ込むだけで巨万の富をせしめることができる(ドイツは本当に、本当にいいお客だった。これもゼレンスキーの怒りの一因)。

プーチンがエネルギー産業から甘い汁を吸い上げ、推定22兆円の財産を築きあげてきた一方で、国民の平均年収は61万円にすぎない。軍隊は強そうだし宇宙開発でもぶいぶい言わせてる国だからもう少し豊かな印象があったかもしれないが、ロシア人の生活レベルは途上国そのもの。

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黒海沿岸の「プーチン宮殿」は推定総工費1200億円

今、そのロシア国民の貧しさがプーチンの足をすくおうとしている。

ウクライナに侵攻したロシア軍にさっぱり勢いがないのは、ウクライナ軍の高い士気と巧妙な戦いぶり、それに加えてNATO諸国からの支援のせいでもあるが、ロシアの武器が役に立たないという問題がけっこう大きいようだ。

武器は構造が複雑で、普段のメンテナンスや部品交換が大切だが、そのための予算を軍の上層部から順に着服していくせいでお金が足らず、たとえば装甲車のタイヤを中国製の安価で粗悪なものに変えたせいで、実戦に入ったとたんパンクして動けなくなるといった具合らしい(この場合スペアタイヤも中国製)。国民を豊かにする努力をしてこなかったプーチンの自滅は、意外と近いのかもしれない。

きのう日本の国会でリモート演説したゼレンスキー大統領が、「ウクライナ復興」にも十分な力を貸してほしいと語るのを聞いて、オイもうその話かよと驚いたが、もしかしたらゼレンスキーさん、ロシア軍のダメダメぶりを計算に入れつつウクライナの逆転勝利を見通し始めているのかもしれない。国際社会が支援の手を緩めることのないよう、楽観論など口にするわけないが。

パリ北駅では、赤十字スタッフにともなわれた母子連れがどこかへ出発していった。行先はフランス国内の避難所か、親戚・知人の家か、あるいは他国か。

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そこにはどんな暮らしが待っているのか。

子供がウクライナ語で教育を受けられる可能性は低く、難民生活が長引くにつれ子供たちのウクライナ人たるアイデンティティーは失われていくだろう。

難民についての知識が乏しい日本では、ウクライナ人は気の毒だから受け入れ賛成としつつ、「ちゃんと日本語を習得して就職できるように」などと能天気なことをいうひとがいる。

難民は移民とは違う。祖国が帰還できる状態になりしだい戻っていくケースが多い。だから難民の保護は難しく、受け入れ先の国や社会が相当な努力をはらう必要がある。難民ひとりひとりの事情や希望に寄り添う優しさが日本にも求められていると思う。

そんなこんなが胸にせり上がってきたせいで、駅舎を出てもしばらく元気が出なかった。

3泊4日のパリ滞在は、結婚20周年を祝うためのもの。気を取り直していろいろ楽しんできたので、パリ最新事情(←全然そういうレベルじゃねえな)をぼちぼち紹介していこうと思う。

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