ストラスブールの旧市街は徒歩でめぐるのにちょうどいいサイズだが、ミニ・トレインも悪くない。
トレインは大聖堂前を起点に2系統あり、ひとつはプチ・フランスという絵になる地区を、もうひとつはドイツ帝国領時代に築かれたノイシュタットという地区を重点的にまわる(30分ごとに発車/冬期休業)。
わたしたちはプチ・フランスに向けて出発。すでに歩いた道が多かったが、音声ガイドを聞きながらだとなかなか面白い。
車幅いっぱいの狭い路地を抜けることもあり、歩くほどの速度ではあるが、なかなかスリリング。
プチ・フランスは、むかし皮加工職人が住み着いて栄えた地区で、華麗な建物と運河がバエまくる。
運河は今でも使われている。中央の橋は船を通すための可動橋で、鉄橋部分の中央を支点に時計の針のように回転する。
ミニ・トレインもいいが、是非はずしてほしくないのがボートツアー。
何社かあるようだが、わたしたちは大聖堂前のツーリストオフィス隣に店のある会社で歴史的建築物ツアーを選んだ。
ボートは、沿岸の建物や街区のなりたちを紹介しながら進む(おとな14ユーロ、約1時間)。
ベルギーで新規感染者が激増した翌週、ここはフランスだとはいえ席が6割ほど埋まっていたのには驚いた。もちろんわたしたちもそれに加担したわけだが。
面白かったのは、ミニ・トレインで訪れたプチ・フランスのあたりで、そこには高低差のある水面を航行させるための閘門があった。
窓外のレンガ壁の下半分が藻に覆われており、普段はそこまで水につかっている。
というエンターテインメントはさておき、建物めぐりのこのツアーでは、
「こちらの街区はドイツ帝国領時代に整備され・・・」
「ナチスドイツが攻め込んできたとき・・・」
「第二次大戦中アメリカの爆撃を受け(ここを占領していたナチスドイツへの攻撃)・・・」
といったアナウンスが繰り返され、ストラスブールがどれだけの苦難を繰り返してきたのかがよくわかる。
ちなみにこの街は、神聖ローマ帝国(=現ドイツと周辺国家)領にはじまり、フランス領→ドイツ帝国領→フランス領→ナチスドイツ領→フランス領と変転した。
ただ地図上の表記が変わっただけではない。ナチスドイツがフランスを占領した大戦中、ストラスブールのあるアルザス地方では市民にドイツ語の使用が強制され、学校教育もドイツ語になり、地域言語であるアルザス語が使用禁止になるなど、徹底的なドイツ化が図られた。
このときのフランス系住民の恨みは容易なことでは収まらず、戦後長い間ドイツ系住民との摩擦が続いてきた。
今でこそ不幸な過去をポジティブにとらえ、「ストラスブールは仏独の融和の象徴」と唱えるようになってはいるが、歴史的な建築をめぐりながら誰が建てた、誰が壊したというアナウンスを聞くたび、平和の装いの下に隠されたどろどろを想像してしまうのであった。
そういう体験をすることなくストラスブールを去るのは、あまりにも惜しい。ボートツアーは是非おすすめしたい。
ところでわたしたちの前では男性カップルがとても仲良くしていた。
ひとりは白人、ひとりは非白人。
もしも今ここがナチスドイツ領だったら、いろんな意味で存在の許されないカップルであり、これこそが自由と民主主義の勝利の果実のひとつ。
「そのために何万人のアメリカ兵が命をささげたこと、忘れないでいてほしいな・・・」
妻がぽつりと言った。
というのはストラスブールの歴史を「いわく因縁」で見たときの感想であり、素直な審美眼でこの街を見ると、これが実に楽しい。
ドイツ文化とフランス文化が混ざり合い、ぜんたいにエキゾチックなのだ。
一般ぴーぽーのわたしには、どれがフランスでどれがドイツ風味なのか明確に説明することはできないが、この街には独特なテイストがあり、見ていて飽きない。
このしつこい屋根の明り取りはなんぞ?
赤っぽい壁色は珍しい。
治安はよいと思われ、夜間の出歩きが苦にならない。
こういう濃厚テイストなレストランの店内を心ゆくまで堪能してみたい。
この照明、普段からこうなのかクリスマスに向けてのものか・・・
ストラスブールは朝晩に霧が出ることが多いようで、大聖堂の尖塔が空に突き刺さる。
その大聖堂に入ってみたら、これまで見たなかで一番暗い教会だった。
悪い意味じゃなく、ローソクしかなかった時代はこんな感じだったろうと思われる静謐。
暗いからこそステンドグラスも美しい。
大聖堂内で唯一、しっかり明るかったのはこの聖母子像。
記憶が曖昧なんだけど、ナチスドイツが来たとき持ち去られたか隠したかでなくなっていた像のカムバックを祝って献灯!みたいな展示。
薄暗い大聖堂のうちで、この「いわく因縁」ストーリーだけに光が当たっているところがやっぱりストラスブール・・・という東洋人の感想。
見ごたえありありの街です。
ボートツアーはお忘れなく。
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