平城京(奈良)の終わりごろからある教会がほんとに古すぎて笑ってしまった。
ドイツのベルギー国境近くにあるアーヘンは、ローマ時代から温泉地として開かれた街だというが、ぱっと見たところ市内に温泉旅館はなかった(郊外にスゴイのがあるのだそう)。
この街のど真ん中にどっしりと構えているのがアーヘン大聖堂で、かのカール大帝(シャルルマーニュ,フランク王にして初代神聖ローマ帝国皇帝)が8世紀の終わりに建設を始めてから営々と増築が行われた結果、時代ごとの様式の展覧会場のようになっている。
古典主義様式、ビザンティン様式、ゲルマン~フランク王国様式の尖塔や屋根が並んでいるが、どれがどれなのか、賢いあなたならすぐにおわかりだろう。
北部ヨーロッパで最古のアーヘン大聖堂は、内部に足を踏み入れる前からわたしに「とりゃあああ」といってきた。
木製のキリスト像。
ふつう石だよね?木製だとしても金ぴかだったりするよね?浅学なわたしはこのように木まるだしのキリスト像を見たことがなく、そのリアルな存在感に驚いてしまった。一見の価値あります。
内部も期待を裏切らない。
唐草模様に似たインテリアは、ビザンティン帝国(東ローマ帝国@コンスタンティノープル=イスタンブール)から吹いてきた東方の香り。
全体にここドイツ?なテイスト。異世界にいるみたい。
なにをかくそうアーヘンは9世紀から16世紀まで神聖ローマ帝国の首都であり、ここはローマ皇帝30人の戴冠式が行われた由緒ある大聖堂なのであーる・・・
という能書きが充満する本堂の脇に付属している小さな教会に入ってみたところ、そこでまた不思議な気分になった。
聖母子像。マリアさまの顔のつくりがどこか仏像ふうであるのと同時に、このキリストさまの天真爛漫な表情よ。
この素朴さから、古い古い時代の原始キリスト教の雰囲気を感じとったり、キリスト教以前から各地にあった女神信仰(マリア崇拝はキリスト教が古来の女神信仰を取り込んだ結果ともいわれている)の姿を見てしまうのはわたしの勝手であり、そんなふうにしてけっこう楽しませてもらった。
アーヘンなんて世界史の教科書で認識するだけの記号のような街に、こんなに生々しい人間の足跡がついているんだから旅はやめられない。
アーヘン大聖堂のもうひとつの特徴は、広大な敷地に守られるのではなく、庶民の街に溶け込むようにして立っていること。
伝統と格式ある聖堂なのに、周囲の住民はそれと軒を接するように遠慮会釈なく家を建て、炊事の煙をたなびかせてきた。この聖俗の一体感はおもしろい。
そういうわけで聖堂前の広場で遅い昼食。
わたしたちが食べ終わるのを近くに立って待っていたお爺ちゃんがいたので、長居せず立ち去る支度をはじめたところ、中年男性がすっと寄ってきて「行くの?」と尋ねてきた。
妻は、あなたに失礼な態度をとるつもりはまったくないんだけど・・・という口調で、「あちらのご老人がお待ちになっていたようなので?」と水を向けたのだが、その男は老人に目をやりながらもまったくピンと来ていない様子で、「えっと、ボクが座っちゃっていいのかな?」とやっている。
妻が二度説明したところでようやく状況を理解して、席を老人に譲っていた。
そのときの男の態度はにこやかで紳士的ではあったが、おまえその勘の鈍さっつーか都市生活者のセンス欠如っつーかもしかしてドイツ人ってこういうタイプ多いの?的な感想をいだいてしまった。
ごめんね。
ちなみに老人は、テーブルが確保できるやいなや振り向いて少し遠くにいた細君を呼び寄せていた。そのおばあちゃんは4本脚の歩行器をつきながら、ゆっくりと近づいてきた。
この街は通過点だったので長居しなかったが、ひとつだけ戦利品がある。
その名が世界にとどろくほどの名物はアーヘンにないけれど、素朴な焼き菓子がけっこう人気の様子。
プリンテン Printen という、スパイスと甜菜シロップをつかった焼き菓子が名物なのだそうで、買ってみた。アーヘンのやつはアーヘナープリンテンという。
ガチモチっとした歯ごたえ、素朴な味わいがGOODでございました。
2ユーロちょっと(270円ぐらい)。
わたしたちはそそくさとアーヘンを離れ、小一時間先の宿泊地を目指す。
そこは谷あいに置き去られたような村で、まだ日本人にはあまり知られていないスポットらしい。くわしくは明日かあさって。
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