散歩コースになっているいくつかの公園のうち、ある場所へ行くとペニーは動かなくなる。
かなり頑固で、強く引っ張っても全力で抵抗するのだが、それは彼女がこの茂みのなかに棒切れが隠してあることを知っているからだ。
「この公園の、このあたり」へ来たというだけで棒投げ遊びスイッチががっちり入るペニーは、どんなことがあってもそれをわたしにやらせようとする。
ほんとにやるの?
という態度でじらしてから近づいていくと、もうそれだけでペニーはぴょんぴょん飛びまわってエンジン全開。
野犬だったせいか人間やイヌとの間に距離があるペニーは、食べ物にしても棒投げ遊びにしても、与えられれば大喜びはするが、自分から要求してくるということはなく、その意味ではわたしたちとの関係も一方通行といってよかった。
それでも1年ちかくたつと様子が変わってきて、ペニーは棒投げ遊びを要求するようになり、双方向の関係ができつつあるという気がしている。
家のなかでの行動も変わりつつある。
呼ばなくてもソファへ上がってきて、あるときは食事の分け前をねだり、またあるときはくるりと丸くなり、尻や背中をわたしたちにくっつけて寝てしまうようなことが増えてきた。
そりゃわんこにしたって、誰かに心を許してコミュニケーションできる暮らしがいいにきまっているわけで、その手伝いができることはラッキーだと思っている。
公園といえば、今朝は王宮前にあるブリュッセル公園へ足を伸ばしたんだが、出入り口が妙な具合になっていた。
金網フェンスが大量に持ち込まれ、このときはまだ通行が許されていたが、まもなく公園が立ち入り禁止になろうかという雰囲気。
なんじゃらほいと思って園内を歩いていたら、ゴミ箱が使えなくなっている。
ゴミの投入口を金属板で塞いであるのを見て、鈍いわたしにもようやく思い当たるところがあった。
「バイデンさん、来はんねんな・・・」
きのうから初外遊に出ているバイデン大統領は、イギリスでのG7サミットを終えるとベルギーへやってくる。14日にブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議があるからだ。
ふだんから要人警護がものものしいブリュッセルで首脳会議となれば、どんな騒ぎになることやら。
それにしてもこんな公園の中までという気はするが、すぐ目の前にはアメリカ大使館があり、おそらくバイデン大統領はそこにも立ち寄るだろうから、この300×400メートルの広大な公園すべてを管理下に置くという措置は正解なのだろう。
近日わたしたちが入るアパートはブリュッセル公園から遠ざかり、徒歩では来られなくなるので、もしかしたら最後の散歩になるかも・・・
そう思って楽しもうと思っていたら、ちょっとした邪魔が入った。
日当たりのいい芝生(ペニーは日光浴本能がとても強い)で棒投げをしようとしていたら、向こうから酔っぱらいもしくは薬物中毒ふうの男がふらふらと近づいてきたのだ。
その歩みは常人の5分の1ほどのペースで、ちっとも進まない。進みかけたかと思ったらタバコを取り出し、火をつけようとしたライターが壊れているのか、着火に気を取られて足が止まる。
完全にイカれてる様子だから関わらなくて済むよう、ベンチに掛けてうつむいていたら、なんと兄ちゃんフラフラッと近づいてくるじゃないか。
くぁwせdrftgyふじこ?
とフランス語で何か尋ねてきたが、ごめんさっぱりわからねえ。
それでも仮設フェンスのほうを指さしながら語っている内容は「なんじゃあれは?」にちがいなかったので、試しに英語で応答してみた。
「よう知らんけど、バイデンが来るからじゃね?」
「バイデン?ああ・・・。いつ来るの?」
「わかんね。週末かな?」
そしたら兄ちゃん、えらく納得のいった表情になり、ひょいと右手を上げて去っていった。
ちなみにバイデンさん、早ければ13日(日)夜にブリュッセルへやってくるかも(イギリスでの最終行事と思われる女王陛下との夕食を終えたらすぐに飛んでくるのではないか)。
そうなると米国政府の小役人である妻は夜も昼も週末もヘッタクレもない忙しさに巻き込まれるというかすでにそうなっているわけだが、このタイミングで引っ越しってのはちょっと罰ゲームぽくてドキドキする。
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