実家に着くなり、土蔵にこもって作業を始めた。
うちの土蔵には長いあいだ悩まされてきた。床下から湿気がのぼってきて収蔵品にカビがつきやすく、ことに漆塗りの建具や食器にしつこいカビがつくと再生不能になりやすい。
それに加えてシロアリの害が発覚したため、あわせて対策工事をすることになった。
1階の床板をすべてめくり、地面に防湿シートを張り、その上に調湿材を並べ、シロアリ駆除剤を散布。
この「床板すべてめくる」がミソで、私たちは工事が始まるまでに床上にあるものをすべて撤去しなくてはならない。
そこにはくっそ重たい家具や巨大な桶や壺、江戸時代から現代までのさまざまな道具類が堆積されており動かすだけでも一苦労、それ以前にブツの一時保管場所を確保しておかなければならないのだが、すでに土蔵内の物量は飽和状態、まずは捨てるものを決めて放り出さなければ話が前に進まない。
捨てるといっても悩むものが多い。
この衝立、幕末の嘉永4年(1851年)の作というから、それなりの骨董品ではあるが、悲しいかなダメージがけっこうある。
フレームのみならずスクリーン部分もシロアリにやられている。
プロに任せればそれなりに修復できるだろうが、そういう費用をかけて直すだけの価値あるのか、さっぱり想像つかねえ。
もしも、もしもだよ、民泊経営するようになったとき、和室にこんなのがひとつ置いてあったらけっこう映えるんじゃね?
とりあえずこの衝立、ほか~ん。
廃棄を即決したものも。
なぜか布団の綿が山ほどあって、昔はこういうのを使いまわしていたんだろうが、時代が違いすぎる。それと中身の状態も不明で、リスクをとる気にならない。
拙者が高校生ぐらいから使い始め、東京へも持っていったコタツ。
思い入れみたいなものがないといえば嘘になるが、一族の誰かがこれを使うシーンが想像できず、また古いものだけに事故も心配だから、思い切って廃棄。
骨董品なら「とりあえず保管」しておけば間違いはないが、困るのは現代もの。
いただきものがけっこうあり、九谷などブランドものもちらりほらり。
小ぶりなものは一族の誰かが持っていって使っているのだろうが、こうしたややデカ系のは住宅事情に適合しにくいんだよねー。
それは承知のうえで写真を撮り、一族のものにまわして所有希望者を募ることにした。
結果はほぼ知れているけれど。
悩むのは故人が手づくりしたものの処遇。
わたしの父は晩年に彫刻に凝り、仏像や動物をよく彫っていた。
これは製作にはいる前につくる粘土製の模型。
手前のライオンには格子状の筋が入っており、これを目安にしながら木塊を彫り進んでいく。
粘土模型は、父の死からここまで24年のあいだ土蔵に鎮座してきたが、今回で廃棄と決めた。
本番の木彫のほうはちゃんと保管してあるし、ツレアイ(わたしの母)の遺品を収めるためにも、場所を譲ってもらうことにした。
そしていつかは、母のためのスペースも別の誰かのものになっていく。
過去と現在と未来に思いを馳せながら這いずりまわる土蔵内。
床下の工事まであと1日。
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